インタビュー3〜サーシャの楽屋訪問〜
By russian-festival. Filed in いちのへ友里 |最後に、チェロ部門第1位アレクサンドル・ラムさんの楽屋を訪ねました。
周囲への気遣いや集中の仕方など、すでに大人の風格が漂うラムさん。「私服姿を撮らせてください」とお願いすると、新婚さんだということで光る指輪も嬉しそうに見せてくださいました。それではチェロへの熱い想いを語っていただきましょう。
ラム:私は7歳の時に自分の意思で音楽家になろうと決めました。鏡の前で、はじめはヴァイオリンを弾く人の真似をして遊んでいましたが、それを見ていた母がそれほどまでに好きならばと私を音楽学校に連れて行ってくれました。しかし、ヴァイオリンに必要な手の腱がすでに完成されており、本格的にヴァイオリンをやるにはすでに遅いと言われてしまいました。もちろん僕はとても落ち込みましたが、そこで“もっと大きなヴァイオリン”ならまだ間に合うと言われたんです。しかも座ったままで演奏できるという誘い文句で(苦笑)。そうしてチェロの音を始めて聞いた途端、人間の声と同じような音色で、いっぺんに大好きになってしまいました。今はチェロこそ最高に愛していて、あのときにチェロを選んだことをとても幸せに思っています。
いちのへ:それほど恋いこがれて始めたチェロですが、マスターするまでには苦労したことはありましたか・
ラム:まず第一に、自分のなまけ癖に打ち勝つのが一番大変だったかな。もちろん、うまくなるのは誰でも望むことだけれど、そのための努力をしたいひとはほとんどいない。特に小さい頃はそんなに練習しなかった。しかし、少し成長すると、”働かざるものは食うべからず”という諺のように、努力しなければうまくはなれないんだと実感しました。勉強とは一生続けなければならないものだから、今25歳になりましたが、マスタークラスなどに参加したり、また自分の学校の教授に教わってもらったりしながらずっと勉強しています。つまり、一番大変なのは、自分との戦いですね。コンクールの時でも、ライバルと戦うというよりも、私の場合は自分と戦っていると言っていいでしょう。
いちのへ:そう、何事も“自分との戦い”ですよね。自分に勝ち、誰よりも努力しているラムさんの、力強い言葉と演奏にパワーをいただいています。ところで、どんなメロディーを演奏しているときに幸せを感じますか?
ラム:いつもどのときに演奏している曲が一番好きです。音楽家の人生とは、色々な場面で様々な曲を沢山演奏しなければならない。その瞬間の具体的な曲を愛していなければ、お客さんに感じてもらえる演奏にすることができない。つまり、皆さんに感じてもらう為には、まずは自分が非常に強く感じなければならない。それができないと中途半端な演奏になってしまうから、好きじゃない曲というのはないんだ。ただ、音楽家として弾くのとは別に、違う楽器の演奏などプライべートで聞くのが好きな曲というのはあるよ。例えば、私は作曲家スヴィリドフの室内合唱用の音楽はおそらく一生演奏しないと思うけれども、しかし、これは、この合唱は、世の中で最も美しいもののひとつだと思っています。
いちのへ:自分の音楽を通して 聴いている人に何を伝えたいですか。
ラム: 心の中に何かが残るように演奏出来たらと思います。もちろんこれは、とても難しいことだけれど、プロであるかぎりハイレベルな演奏を超えた何かを目指さなければ意味がないと思う。プロだけでいいと思う音楽家もいれば、逆にプロではなくても非常に心をこめた演奏をする音楽家もいるが、どちらかではなく、必ずその両方が調和していなければならない。お客様に何を伝えて、お客様とどんなエネルギーの交換ができるか・・・期待しています。
いちのへ:楽しみにしています!ありがとうございました。