Archive for 1月, 2025

ロシアの伝統美「プラトーク」の魅力に迫る! 後編

土曜日, 1月 25th, 2025

独特の花柄デザインと正方形の形状で知られているロシアのプラトーク。

前編では、一大産地パヴロフスキー・ポサードの工場へ。製造過程を再現したコーナーで、伝統的な木版印刷の技術やレジェンドたちの作品などの展示から、プラトークがどのように作られているかを学びました。

後編は、街のなかの「プラトークとショールの歴史博物館」へ足を伸ばしてみましょう!

スクリーンショット 2025-01-13 21.17.43

△ちなみに、プラトークは、頭や首に巻くウールやシルク製のもので、装飾用やロシア正教の教会に入るときにつけるようなもの、シャーリ(ショール)は肩や背中を覆うような大きさを指すことが多いそうです。

IMG_7648 2

△入り口にはこんな可愛らしいフォトスポットも。

 

博物館で学ぶプラトークの歴史

スクリーンショット 2025-01-12 11.16.24

△19世紀から現代に至るまで、さまざまなプラトークが展示され、まるでタイムトラベルをしているかのように、美しいプラトークを通して、当時の生活や時代の変遷を感じることができます。

スクリーンショット 2025-01-13 17.33.53

△ロシアでプラトークは、冬の防寒具としてだけでなく、結婚式や宗教的儀式の際の象徴的なアイテムとしても使われてきました。

スクリーンショット 2025-01-13 17.21.18

スクリーンショット 2025-01-13 17.36.51

起源は諸説ありますが、17世紀に東洋から伝わり、18世紀に広まったとされています。当初は貴族や裕福な商人の間で高級なファッションアイテムとして愛用されましたが、19世紀頃になると、職人たちが手織りやプリント技術を発展させ、農村部の女性たちにも普及していきました。

スクリーンショット 2025-01-13 17.21.32 スクリーンショット 2025-01-13 17.22.00

ロシア正教の教会に入る際に、女性はプラトークを頭に巻くことが一般的です。神への敬意を表し、特に礼拝のときには大切ですし、入り口に観光客用のプラトークが用意されていることもあります。現代では少なくなってしまいましたが、伝統的な結婚式の儀式の一環として、花嫁の頭をプラトークで覆ったり、あるいは結婚式の贈り物として家族や友人たちからの祝福の気持ちを示すアイテムとして、また美しい模様や鮮やかな色合いで結婚式のテーブルを飾るために使われたりもしていました。

スクリーンショット 2025-01-13 18.24.11

△1862年にモスクワ各地の工場で作られたショール。アンティークなプラトークは、その時代のファッションや技術を反映しており、訪問者の注目を集めています。

スクリーンショット 2025-01-13 19.11.35

△19世紀後半のウールのジャガード織ショールとカーペット。東洋と西洋の模様が施されたロシアの織物は19世紀初頭に登場しました。フランスのジョゼフ・マリー・ジャカルによって発明された通称ジャカード織機は、革命前のロシアで広く使われるようになっていました。

スクリーンショット 2025-01-13 18.32.04

△20世紀初頭にパヴロフスキー・ポサードで作られた、シルクのフリンジが縫い付けられたジャカード織プラトーク。18世紀前半にはモスクワ近郊の村々で絹織物の生産が広く行われており、19世紀にはモスクワ州パヴロフスキー・ポサード市が絹織物産業の中心地となり発展していきました。残念ながらこの手織り機(ジャカード)で織られた絹製品の生産は、20世紀末には廃れてしまったそうです。

興味深かったのは、模様が時代ごとの社会情勢を反映していること。帝政ロシア時代の花柄は華やかで繊細な柄が、一方、ソ連時代にはシンプルで機能的なデザインが増えたそうです。

スクリーンショット 2025-01-13 18.09.47

△社会主義の時代にはこんなデザインも。ロシア革命や第二次世界大戦時の特別なデザインは、歴史的背景を深く理解する手助けにも。

スクリーンショット 2025-01-13 18.11.48

△こちらもソ連時代、ボリショイ劇場の200周年記念にデザインされたプラトークです。

スクリーンショット 2025-01-13 18.59.31 スクリーンショット 2025-01-13 19.01.20

△パヴロフスキー・ポサード170周年などこの場所にちなんだプラトーク

このように特定の歴史的出来事や祝祭に合わせて制作された限定デザインのプラトークも多数展示されています。また、地域ごとの模様の違いや、宗教的な意味合いが込められたデザインも紹介されており、プラトークが単なる装飾品ではなく、ロシアの人々の生活や精神性と深く結びついていることがわかります。

スクリーンショット 2025-01-13 19.38.39

プラトーク型の記念切手

 

プラトークの魅力と現代的な楽しみ方

巻き方次第で表情が変わり、1枚でファッションの主役になってくれるプラトーク。実用的なだけでなく、長い歴史が織り込まれた奥深さが、手に取った瞬間から感じられます。

最後に、プラトークのショップへ。

スクリーンショット 2025-01-13 19.45.38

△パヴロフスキー・ポサードではもちろん、モスクワにもたくさんのお店があります。「気分に合わせて新作を」「大切な方への贈り物に」とロシア人にも愛されていますし、「ロシアを訪れた記念に」とお気に入りの一枚を選ぶ観光客にも大人気です。

あれこれ手に取ってみていると・・・私が選ぶプラトークはエレーナ・ジュコワさんの作品が多いみたい。色々迷った結果、モスクワへ会いにきてくれた母とお揃いで、«Ненаглядная»(愛しい人)と名付けられた1枚を購入しました。店員さんや常連のお客様にさまざまな巻き方を教えてもらって、すっかりプラトークに夢中の私たち母娘!ロシア旅行の間、毎日お互いにお気に入りのアレンジを楽しみながら温かく過ごしました。

パヴロフスキー・ポサードを訪れて、工場や博物館プラトークが持つ歴史、そして職人たちの情熱を肌で感じて、さあ、あなたはどんな物語のプラトークを選びますか?

 

プラトークの本場パヴロフスキー・ポサードへ 前編

火曜日, 1月 14th, 2025

寒冷なロシアの冬、ひときわ鮮やかに存在感を放つ「プラトーク(платок)」。

ロシア語で「スカーフ」や「ショール」を意味しますが、単なる防寒具ではなく、長い歴史のなかで培われたロシア文化の象徴的なモチーフのひとつで、ロシアの人々の生活や心に寄り添う大切な存在です。

スクリーンショット 2025-01-14 9.40.05

今回のブログでは、ロシアのプラトークの歴史や魅力、そしてその一大生産地であるパヴロフスキー・ポサードの工場と博物館をご案内しながら、奥深いプラトークの魅力を探ります。

 

プラトークの本場パヴロフスキー・ポサード

ロシアの首都モスクワから東に約70km、パヴロフスキー・ポサードというプラトークの一大生産地があります。

スクリーンショット 2025-01-13 21.37.01

△市の入り口もプラトーク

スクリーンショット 2025-01-13 10.19.27

「パヴロフスキー・ポサード・ショール工場」は、1795年から今日まで、職人たちが伝統技術を守りながらも現代的なデザインを取り入れたプラトークを生み出しています。

スクリーンショット 2025-01-13 10.25.18

プラトークの鮮やかな模様は、一枚ずつ手作業でプリントされています。その手法は「木版印刷」に由来し、今でも職人たちの熟練した技術によって、複雑な模様が正確に再現されています。

 

プラトークの作り方とその芸術性

プラトークの製作には、非常に多くの手間と技巧が求められます。

スクリーンショット 2025-01-13 12.27.31

まず、デザインを考案した後、そのデザインを布地に染め込む作業が行われます。

スクリーンショット 2025-01-13 10.31.18

スクリーンショット 2025-01-13 10.35.29

この過程には、 木版染め(木製の版に絵柄を刻み、染料を押し当てて布に転写する技法)やトレーシングペーパーを使って模様を移す技法が多く使われます。

スクリーンショット 2025-01-13 12.07.59 スクリーンショット 2025-01-13 12.07.28

実際に博物館では、古い木版やトレーシングペーパーの写真も展示されており、それらがどのようにショールに命を吹き込んでいるかを知ることができます。

スクリーンショット 2025-01-13 12.10.01 スクリーンショット 2025-01-13 12.10.20

デザインを精密にトレーシングペーパーに写し、さらにそれを布地にトレースしていきます。トレーシングペーパーを使うことで、デザインの一貫性を保ちながら、非常に細かいディテールを再現することができるそう。

スクリーンショット 2025-01-13 12.11.18

ショールの模様に込められた繊細さや、制作にかけられた時間と努力が、このような道具や技法に凝縮されています。

スクリーンショット 2025-01-13 12.27.46

印象的だったのは、1枚のプラトークに使用される色数の多さ!一つのデザインに30色以上を重ねることも珍しくなく、各色ごとに版を変えて印刷するため、非常に手間のかかる作業です。

スクリーンショット 2025-01-13 12.18.51

△また、天然素材であるウールやシルクが主に使用され、触れるだけでその柔らかさと高級感が伝わってきます。メリノファインウールは、メリノ種からとれる羊毛で、ほかの羊毛に比べて繊維が細く、吸湿性と通気性に優れているので、サラッとした肌心地で夏でも快適に着用できるうえ、丈夫なのが特徴だそう。

スクリーンショット 2025-01-13 12.31.47

△20世紀はじめ頃の工場周辺の様子や、

スクリーンショット 2025-01-13 12.28.42

スクリーンショット 2025-01-13 13.38.02

△職人たちが作業にあたる様子など、貴重な資料も展示されているほか、

スクリーンショット 2025-01-13 10.28.03

△これまでのレジェンド職人たちの作品も紹介されています。

スクリーンショット 2025-01-13 13.25.59

△パヴロポサードのショールには、作家の名前とタイトルがつけられているのも特徴で、お気に入りの作家の柄や色合いから世界観を感じられたり、ストーリーを想像して楽しむこともできます。

スクリーンショット 2025-01-13 13.35.33

△たとえばタチヤナ・パヴロヴナさんのコーナーでは、経歴や受賞歴、そして代表作(「エレジー」や「ベルベット」「ベルベット・ナイト」)などを知ることができます。

スクリーンショット 2025-01-13 13.34.23

△デザイン分野で傑出した作品を残したエレーナ・ゲルマノヴナさんは、モスクワ国立繊維アカデミー卒業後、勤務をはじめた初日から(!)、非対称などモダンなデザインを生み出していきました。代表作には、「春の息吹」や「ロマンチック」「雪の女王」などがあります。

スクリーンショット 2025-01-13 13.27.06

ひとつひとつのプラトークには職人の技が光っていて、まさに「生きた芸術」を感じることができます。

後編では工場の外へ・・・パヴロフスキー・ポサードの街のショール博物館やプラトークのお店にもご案内します!