つづいて写真中央、ヴァイオリン部門最高位受賞のドミトリー・スミルノフさんにお話を伺いました。まだあどけなさが残るスミルノフさん、皆の前で答えるのは恥ずかしいと小声で目を伏せるシャイな一面も・・・。自分なりの言葉を探しながら一生懸命答えてくれました。
いちのへ:あなたにとってヴァイオリンとは?
スミルノフ: そうですね、僕は生まれてからずっとヴァイオリンを弾いてきたし、これからもきっと続けると思う。この楽器がとても好きで、音楽なしではいられないんだ。時々、自分でも上手く弾けるといっていいときもあるし、もちろん、たまには上手くいかないときもあるんだけれど、そうたとえばコンサートで何か失敗してしまったりとか・・・でも上手くいくときには、僕は何か必要なことを与えられているという感覚があるし、逆に僕も観客に何かを与えられているように感じたりするんだ。
いちのへ:ヴァイオリンをはじめたきっかけは、ご両親が選んでくださったそうですね。
スミルノフ:そう、僕は決してわがままを言ったり、やりたくないといったりはしなかったよ。最初はひどい音しか弾けなかったんだけど、まだ幼くてよく分からなかったせいか、嫌ではなくて、比較的すぐに上手く弾けるようになったんだ。とてもすばらしい先生と出会ったから、7歳から10歳までの三年間で色々なことを達成できて、色々な曲を弾けるようになって、コンクールにも出るようになった。その後はもっと難しかったな。15歳まで、いや、18歳までぐらいは音楽家はまだ若いとされているから、才能があって、音楽を感じることが出来れば欠点さえも許されるんだ。でも、ある程度大人の音楽家になると、それが許されなくなる。20歳とか・・・成人だから完熟した音楽家だとは思わないけれど、難しい年代だと思う。
いちのへ:今回のコンサートでは、同年代の音楽家との出会いがありましたね!
スミルノフ:非常にすばらしい音楽家達だよ!彼らはもう充分にプロだといって間違いない。エネルギーに溢れ、教育レベルも高く、それぞれに音の濃さが感じられるんだ。これはとても大事なこと。
いちのへ:今、あなたが演奏で最も大切にしていることは?
スミルノフ:質を上げることかな。音の質とか、色々な細かい部分の質を磨いていかなければならないんだ。真面目に演奏するならするほど、超ハイレベルじゃないといけないからね。もちろん、曲が綺麗ならそれに助けられる部分があったり、演奏パフォーマンスでごまかすような方法もないことはないけれど、それは音楽に対して真面目なやり方ではないからね。安定した良質を目指さなければならないんだ。技術的な質をあげるだけではなく、心も入れて、芸術品にしなければならない。特に昔の優れた音楽家の演奏を聞くと、すごく伸びやかで心地良く感じられ、全く仕事で演奏しているというような印象や努力の跡を感じさせないよね。音楽家はそういう影の努力のようなものを感じさせずに常に安定した良い演奏を提供するために、沢山練習して、音楽を聴いて、他の音楽家や音楽の教授たちと接しなければならない。そして、そこから自分にとって有益な何かを得ていかなければならないんだ。
いちのへ:日本は初めてだそうですね。
スミルノフ:ええ、まずは日本のお客様に感謝の気持ちを伝えたいです!非常にあたたかく迎えてくださりありがとうございます。日本人は、言葉を見つけられないくらい皆とても優しくて、まるでずっと会いたかったとでもいうようにもてなしてくれて・・・これは日本人の精神的な特長なんでしょうか。
いちのへ:気に入ってくださって嬉しいです!観光の時間もあったんですか?
スミルノフ:リハーサル等もあってゆっくり観光は出来なかったけれど、東京で幾つかの名所を見ることができて、とても感動しました。日本は技術が世界一だし、それと同時に伝統も残っているのが魅力ですよね。たとえば大都会の高層ビルを背景に皇居の自然があったりして、本当に信じられないような風景でした。もしまた招待してもらえる機会があれば、もっともっとみてみたいよ!
いちのへ:日本土産にはどんなものを買ったんですか?
スミルノフ:大好きな煎茶や、扇子やいろいろ買ったけれど・・・世界の観光地によくあるスノードームがあれば、それもぜひ買いたいな!日本はお土産のラインナップも独特ですよね。とても個性があって第一印象から気に入りました。
いちのへ:最後に、夢を教えてください。
スミルノフ:実現できそうな夢としては、ブラームスのバイオリンとチェロの為の曲を演奏することです。もう一つの夢は、自分の演奏を楽しむこと。他の音楽家もそうでしょうが、自分を客観的に評価するのは本当に難しいことなんだ。満足すると成長が止まってしまうし、いつも不満でいても自分を殺すことにもなってしまうし・・・。でも、自分を満足させるような音を出せる日まで、勉強をつづけ、何かを探しつづけ、楽しみながら演奏をつづけたいです。
いちのへ:ありがとうございました!
(インタビュー3につづく)