華麗なる建築で出会うロシアの面影 ~バルト三国ラトヴィア・リガ エイゼンシュテインのアール・ヌーヴォーからスターリン様式まで~
火曜日, 8月 25th, 2026ロシアの飛び地カリーニングラードから、バルト三国をめぐる旅。エストニアに続いてご紹介するのは、ラトヴィアの首都リガです。
世界遺産に登録されている「リガ歴史地区」。中世の面影を残す旧市街に加え、ヨーロッパ有数のアール・ヌーヴォー建築が残る街としても知られています。
なかでも私が楽しみにしていたのが、映画『戦艦ポチョムキン』で知られるセルゲイ・エイゼンシュテインの父、ミハイル・エイゼンシュテインが手がけた建築です。
さらに街を歩けば、黄金のドームを輝かせるロシア正教会、そしてソ連時代に建てられたスターリン様式の高層建築まで。建築を通して見えてくるリガとロシアのつながりを、「ロシアナ」の視点でたどってみましょう!(※写真や店舗等の情報は2019年8月訪問時のものです。)
リガで出会う、アール・ヌーヴォーの世界
19世紀末から20世紀初頭、ヨーロッパ各地に広がったアール・ヌーヴォー。ドイツ語では「ユーゲントシュティール」と呼ばれ、リガ中心部にも数多く建築が誕生しました。なかでもアルベルタ通りは、その華麗な建築が集中するエリアです。
△まず訪れたのは、アルベルタ通り12番地にある「リガ・アール・ヌーヴォー博物館(Riga Art Nouveau Centre)」。
△1903年、ラトヴィアを代表する建築家コンスタンティーンス・ペークシェーンスが自邸として建てた建物で、螺旋階段は、ヨーロッパでも特に優れたデザインとして有名です。
△現在は、ペークシェーンスが暮らした1階部分が博物館になっています。居間や食堂、寝室、キッチンまで、20世紀初頭のリガの暮らしが再現され、街で見上げていたアール・ヌーヴォーを、今度は「暮らし」の中から味わうことができます。
△室内には家具や食器、ステンドグラス、刺繍、時計などが美しく配されています。
△美しい調度品に囲まれた室内。外から建築を見るだけでなく、「この時代の人たちはどんな部屋で、どんな暮らしをしていたのだろう」と想像できるのが、この博物館の面白さです。
△キッチンで「ロシアナ」の目に止まったのは……サモワール!ロシアでもおなじみのお茶道具ですが、リガの暮らしの中にも自然に溶け込んでいました。こうした何気ない生活用品に出会うと、かつて同じロシア帝国、そしてソ連という歴史を共有した地域ならではの文化の重なりを感じます。
△館内では当時を思わせる衣装を身につけたスタッフの姿。同じような衣装で記念写真を撮ることもできます。
△子どもたちは、自分だけのユーゲントシュティール建築をデザインできるコーナーに夢中!
△完成した「Art Nouveau Building of Dreams」。窓や屋根、装飾などを組み合わせてつくったオリジナルの建物を、旅の記念に持ち帰ることができました。
映画監督エイゼンシュテインの父が遺した、もうひとつの芸術
博物館でユーゲントシュティールの世界に触れたら、今度はアルベルタ通りを歩きながら、実際の建物を見てみましょう。
そして、この通りを語るうえで欠かせない人物が、ミハイル・エイゼンシュテイン(Михаил Осипович Эйзенштейн)です。
ロシア文化に詳しい方なら、「エイゼンシュテイン」と聞いて、映画『戦艦ポチョムキン』のセルゲイ・エイゼンシュテインを思い浮かべるかもしれません。(関連ブログ☆ロシア映画の聖地!モスフィルムのスタジオツアー 前編)
実はミハイルは、その父親。1867年、当時ロシア帝国領だったキエフ県に生まれ、サンクトペテルブルクで土木工学を学んだのち、1893年にリガへ。官吏として交通・土木関係の仕事に携わる一方、リガに数々の建築を遺しました。
△アルベルタ通り4番地には、ミハイル・エイゼンシュテインの記念プレートもありました。映画史に名を残した息子セルゲイ。その父もまた、リガの街にこんな「作品」を遺していたのですね。
△アルベルタ通り8番地(1903年)ミハイル・エイゼンシュテイン設計。
青いレンガと白い装飾のコントラストが美しい建物です。中央部分は一本の「木」を思わせる構成で、その上には力と権力を象徴するライオンの頭。女性の顔は美を表し、窓の周囲には住人を守るかのような怪物の顔も潜んでいます。遠くから眺めても華やかですが、近づくほど次々と不思議なモチーフが見つかります。華麗でありながらどこか幻想的。エイゼンシュテインの独創的な世界観を楽しめる代表作のひとつです。
△アルベルタ通り4番地(1904年)ミハイル・エイゼンシュテイン設計。
よく見ると建物上部には、口を大きく開けた3つのメドゥーサの顔、両側には建物を守るようなライオンの姿も。ひとつひとつは驚くほど大胆なのに、建物全体では不思議なほど優美にまとまっています。
△アルベルタ通り2a番地(1906年)。ミハイル・エイゼンシュテイン設計。
入口では2体のスフィンクスが建物を守っています。エジプトやギリシア神話など、遠い世界のモチーフがリガの街角に現れるのも、エイゼンシュテイン建築の面白さです。
△少し足を延ばしてエリザベテス通りへ。青と白のファサードが印象的な10b番地も、エイゼンシュテインの代表作のひとつ。巨大な人の顔をはじめ、建物いっぱいに装飾が施されています。
△「あの顔は何?」「ここにも動物が!」建物を一つひとつ見上げながら歩くのが楽しいアルベルタ通り。こちらはエイゼンシュテインではなく、ラトヴィア人建築家エイジェンス・ラウベによる1908年の建物でラトヴィアの民族文化を意識したナショナル・ロマンティシズムの代表作です(アルベルタ通り11番地)。エイゼンシュテインの華麗な装飾とは対照的な表情を見せています。
博物館でアール・ヌーヴォーの世界を知ってから歩いてみると、街全体が巨大な美術館のように見えてきます。
ロシア皇室ゆかりの器でティータイム
△アルベルタ通り周辺の建築散歩の途中で立ち寄った、アート・カフェ「Sienna」。
ここでは、サンクト・ペテルブルクの「インペリアル・ポーセリン」に出会いました。1744年、ロシア皇帝エリザヴェータの時代に創設されたロシアを代表する磁器工房で、帝政時代には皇室のための磁器も制作してきました。
△店内には、鮮やかな青い格子模様が美しい「コバルトネット」をはじめ、バレエをモチーフにしたもの、花瓶やフィギュアなど、ロシアの陶磁器が並んでいました。
△ロシアでもおなじみの蜂蜜ケーキと紅茶でひと休み。華麗なアール・ヌーヴォー建築を眺めた後に、ロシアの器でティータイム。こんな寄り道も「ロシアナ」ならではのリガの楽しみ方です。
今度はソ連時代へ――空にそびえる科学アカデミー
華やかな20世紀初頭の建築から、時代を一気に半世紀ほど進めます。
△旧市街の南側、リガ中央市場の近くにそびえるのは、ラトヴィア科学アカデミー。1950年代に建設され、1961年に完成した高さ約108メートルの高層建築です。いわゆる「スターリン様式」を代表する建物のひとつで、モスクワ大学など、モスクワの「セブン・シスターズ」を思わせる姿が印象的です。
関連ブログ
☆【モスクワ通信】セブン・シスターズ(上)〜スターリン様式の超高層ビル〜
☆【モスクワ通信】セブンシスターズ(下)〜幻のソヴィエト宮殿に挑んだル・コルビュジエと現代のスターリン建築!?〜
2019年当時の案内表示にも注目! ゴーゴリ通りやツルゲーネフ通りと書かれています。街角の地名にも、当時の歴史の名残を感じました。
△よく見ると、外観の装飾には、ラトヴィアの民族的な装飾モチーフも取り入れられています。「ソ連の建築」の中に「ラトヴィア」を探してみると、この建物がぐっと面白くなります。
△展望スペースからは、リガの街を見渡すことができます。
△科学アカデミーの隣にロシア正教会が見えたので、行ってみることに。
街角で出会うロシア正教会
△聖母受胎告知正教会
現在の建物は1818年に完成したロシア正教会で、緑の屋根と細長い鐘楼が印象的です。リガがロシア帝国領だった時代の歴史を今に伝えながら、現在も祈りの場として使われています。
△トラムの車窓からも、木々の向こうに黄金色のドームを輝かせる「キリスト生誕大聖堂」が見えました。1884年に完成したリガ最大のロシア正教会で、ロシア皇帝アレクサンドル2世から贈られた12個の鐘を収めるため、当初の設計にはなかった鐘楼が加えられたというエピソードも残されています。ソ連時代にはプラネタリウムとカフェとして使われましたが、現在は再び正教会として礼拝が行われています。
20世紀初頭、幻想的な装飾で街を彩ったミハイル・エイゼンシュテインのアール・ヌーヴォー。
そして約半世紀後、リガの空に新しいシルエットを加えた、ソ連時代の科学アカデミー。
さらに街を歩けば、帝政ロシア時代に建てられたロシア正教会や、ロシア皇室ゆかりの陶磁器にも出会います。
「ロシアとのつながり」という視点で見ていくと、ひとつの街の中に重なる、さまざまな時代が見えてきます。
△このあとも旧市街から運河沿いへと歩けば、「ミハイル・チェーホフ・リガ・ロシア劇場」があります。
△こちらはリガ出身のバレエダンサー、マリス・リエパの像。ソ連時代、ボリショイ・バレエを代表するスターとして活躍しました。
△運河沿いを北へ進んだクロンヴァルダ公園では、素敵なプーシキン像にも出会いました。
日常の風景の中にも、思いがけないロシアとのつながりがあります。
旅先でそんな小さな発見を探すのも、「ロシアナ」ならではの街歩きの楽しみです。
関連ブログ
カリーニングラード
☆モスクワ通信『中世ドイツ、ソ連、そしてロシア!融合の飛び地カリーニングラード』
☆モスクワ通信『琥珀、防空壕、マジパン!カリーニングラードでおすすめの博物館3選』
エストニア































